マスク・ザ・フラン

「まて」

「だ、誰だ！」

「お頭！　あの建物の上っす！」

「なんだお前は！　変な被り物しやがって！」

「私はスーパー仮面。お前らの悪事は全部おみとおし」

『あー、やっぱそれ名乗るんだ……』

　俺たちは今、とある廃村にいた。

　十年以上前に魔獣被害によって廃棄されたこの村は、現在盗賊団の根城となっている。

　その捕縛依頼を受けたのだ。

　ただ、少々込み入った事情があり、適当に倒せばいいというわけではなかった。

　盗賊団には貴族の後ろ盾があるらしく、本筋はその貴族の捕縛であるという。この盗賊団を捕まえて、そこから情報を得るのが目的だった。

　フランは『黒雷姫』という異名が最近有名になってきており、普通に攻め入れば確実に正体がばれるだろう。どうやら盗賊団には貴族子飼いの私兵が混じっており、そいつは通信系の魔道具を持っているらしい。それで『黒雷姫が攻めてきた』と連絡されてしまうと、貴族に何かを勘付かれる恐れがある。フランが町に入ったことはすでに知られているはずだからだ。

　そこで、通りすがりの冒険者に偽装するという方法を取ることになっていた。

　そのため、フランはマスクを被っている。

　頭からスッポリとかぶる、まるでルチャドーラのようなマスクだ。色は真紅。正直ダサいんだが、フランは何故気に入ってしまったらしい。

　これを冒険者ギルドで貸してもらってからは、ずっと被りっぱなしだ。しかも「私はスーパー仮面」などとダサい名前まで名乗り出した。

　いや、俺だってネーミングセンスある方じゃないし、フランが決めたんならいいんだけどさ……。もう少しマシな名前はなかったのかと思ってしまうのは、仕方ないよね？

　だが、フランがスーパー仮面のバックストーリーとかを考え出した時点で、もう止まらないことは分かっていた。

　スーパー仮面はどこにでもいる少女だったが、ある日魔道具であるスーパーマスクに認められ、スーパー仮面となったのだ！　というストリーがあるらしい。正義の心を持った人間しか装備できない、ヒーローの証であるそうだ。

　変装しているのは顔だけではない。尻尾も服の中に仕舞っているし、外套を身に着けて装備も見えないようにしている。俺も形態変形スキルを使い、ただの鉄剣に見えるように姿を変えていた。

　さらに鑑定偽装で名前も別人に変えているので、見た目で正体がばれることはないだろう。

「私が偶然通りかかったのが、お前たちの運のつき」

「小娘がたった一人で粋がってんじゃねぇ！　お前ら！」

「おう！」

「ぶっ殺せ！」

　盗賊たちが恫喝するように叫び声をあげるが、フランが怖がるわけがない。

　むしろ、喜んでいた。

　盗賊たちのテンプレな行動が、物語の雑魚敵にそっくりだったからだろう。

「ふふん」

　楽しそうだ。スーパー仮面ごっこが盛り上がってきたらしい。

　飛んでくる矢を最小限の動きで回避しつつ、屋根の上から跳んだ。

「とう！」

　着地したのは盗賊たちのど真ん中である。

「なっ！　なんて動きを……」

　ここにきて、ようやくフランがただの少女ではないと理解したのだろう。盗賊の頭目が怯んで、僅かな間固まってしまった。

　ようやく驚きから回復した時には、もう遅い。

「ふっ」

「な――ぐべっ！」

　盗賊の頭目が、いつの間にか背後に回ったフランに担がれていた。そのまま体を後ろに反らせたフランによって、頭部から地面に叩きつけられる。

　裏投げ――というよりはジャーマンスープレックスに近いだろう。

　そこからはプロレス技のオンパレードだ。

「せや」

「ぶごっ！」

「せい」

「ぎぁぁ！」

　パイルドライバーにアルゼンチンバックブリーカー、フランケンシュタイナーやエメラルドフロウジョンなどの投げ技だけではなく、シャイニングウィザードやアイアンクローも使いこなしている。

　寝かしつけの物語として、プロレスの話を口頭でしただけなんだけどな……。それだけでここまで再現できるのは、フランの戦闘センスゆえだろう。しかも、フランの超ステータスにかかれば、どれもがフィニッシュホールドだ。水平チョップで人が一〇メートルぶっ飛ぶのである。

「せいばい」

『……殺してないよな？』　

　アルゼンチンバックブリーカーを掛けられた盗賊とか、未だに妙な角度で折れ曲がったままなんだけど？　一応、捕縛任務だぞ？

『とりあえずヤバそうなやつに回復魔術を掛けておこう』

「ん」

『満足したか？』

「楽しかった」

　ならいいけど……。今後、フランにマスクを被らせるのは止めておこう。